昭和21年、二蝶は旅館として創業しました。まだ瀬戸大橋がなく、四国と本州を繋いでいたのが宇野と高松の連絡線だけだった頃のことです。当時、高松は「さぬき芸どころ」と言われ、たくさんの芸妓さんが活躍する場所でした。そして、その雅な往時の芸妓「二蝶」の名を受け継いだ屋号は、当時、お蝶とめ蝶がもつれながら上へ上へと舞い上がる様子を思い描いたように、77年が過ぎた今でも受け継がれています。
讃岐の地は瀬戸内海の新鮮な魚介類とこの地でしか手に入らない四季折々の野菜や果物を楽しめる恵まれた土地。自然から受けるたくさんの恩恵に感謝しながら訪れてくださったお客様に素材を最大限に楽しめるお料理と素敵なお時間を過ごしていただけるよう日々精進を重ねています。
素材を生かすというのは、口に運んだ瞬間、味と共に四季の彩りが広がるような料理を提供することです。どうすれば魚介や野菜の味を心から堪能していただけるか、おいしいと言いながら心からの笑顔を浮かべていただけるか。そのことだけを考え、突き詰め、持っている技術を注ぎ込んでいます。料理人は表舞台には登場しませんから、その過程をどんなに言葉で語っても意味がありません。記憶に残る味を届け、料理に語ってもらうこと。それが唯一お客様と料理人を繋ぐ手段なのではないかと思います。
料理人が込めた想いをお客様に届けるのは接客スタッフのお仕事です。温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに。最もおいしい状態で、最も美味しく食べていただけるタイミングで、お客様に提供することで、二蝶のお料理を通して幸せな気分になっていただくこと、そして、二蝶で過ごしていただく時間を記憶に残るものにしていただくことが目標です。おもてなしに定義はなく、マニュアルも存在しないため、答えのないお仕事ですが、心から「ありがとう」と言っていただけるやりがいのあるお仕事でもあります。
Cooking staff of Japanese cuisine
料理の道で最初に覚えることといえば盛り付けや皿洗いから。それは二蝶でも同じです。皿洗いの意味を知っている料理人は良い料理人だと二蝶は考えます。料理人はお客様の前に出ることができませんので、作った料理をおいしく食べていただけたかどうかは食べ終わったお皿を見るしかありません。つまり、調理場で最もお客様に近い場所が皿洗いなのです。そこでお客様からのメッセージを受け取りつつ、仕事をきれいに早くこなしていく。これができるようになってはじめて、料理人として入口に立つことができたと言えるでしょう。
二蝶の料理は素材のおいしさを生かした味付けです。素材と素材をうまく組み合わせることによって味にさまざまな変化をつけることが可能です。焼き方や煮込み時間を工夫することで食感を変えることもできます。その1つひとつは発見で、突き詰めていくことで食べているものの印象が大きく変わることがあるんです。普段苦手なものでも二蝶なら食べられるという声を聞いた時は、料理人として一番うれしい瞬間。そのためにも日々の研鑽を欠かすことはできません。料理の道に終わりなんてありませんから。
Delivery of Thought
料亭の接客はお客様にお料理をお届することが一番のお仕事ですが、その前に覚えておかなければならないことがたくさんあります。着物を着られるようになること、着物を着た時の所作、立ち居振る舞い。お客様の前に出た時にとる行動ひとつで印象も大きく変わってきますから、すべて仕事として覚えなければならないことと言えます。そして、お客様にお届けするお料理やお酒の説明も含め、当たり前のことが普通にできるようになってやっとスタートラインです。と言っても、やっていくうちに自然とできるようになっていくので難しく考えなくても大丈夫です。
最初に先輩がサポートしてくれていたことが自分でできるようになるため、基本ができてくるとお客様と会話をする機会も増えてきます。料理のことだけでなく、お部屋の飾りつけのこと、観光で訪れている方には高松のことを聞かれたりもします。そして、その受け答えでお客様の反応が変わってきます。対応に答えはなく、唯一の正解はお客様が喜んでくださること。その答えを日々探し続けることが接客のお仕事になります。だから「喜んでいただけることに喜びを感じられる」人にとってはすごく向いている仕事なのではないかと思います。